アメリカの大学院に出願するのに実際に必要な書類やテストの情報は出回っていますが、アメリカの大学院への出願を考えているなら学部生がどのような立ち回りをしたほうがいいのかを解説している情報はあまり出回っていないようです。アメリカでは院試がない分、直前の知識や対策より学部の間の立ち回りが需要になってくきます。
前置き
筆者は日本の高校からアメリカの学部へ進学して、理研で大学院をやりに帰ってくるという世にも珍しい経歴ですが、大学院はアメリカに出願する準備も完了していました。*1 その際の個人的な出願準備と周りのアメリカの現地生がどのように大学院入試対策をしているかを元にお話ししていこうと思います。
まず自分の取るべき道はアメリカの大学院進学なのかしっかり考える
どんな人がアメリカの大学院に向いているか、行くべきかというのはまた違う記事にしようと思いますがここでも少し触れておこうと思います。
アメリカの大学院は待遇こそ日本よりいくらかいいですが(下記リンク参照)、 東大クラスの研究をしようと思うと、そのレベルの大学院への入学は東大院試と比べ物にならない難関です。中には日本の研究を貶す人もいるようですが、Nature IndexやAcademic Reputationを見れば分かるように、少なくとも東大・京大の研究は今でも世界的にトップクラスのものです。*2 またアメリカの博士課程は修士課程からではなく学部卒業から入るものなので、日本で修士まで取ってアメリカの博士課程に進学する場合、そこからさらに5年以上かかることになります。*3
留学体験談は基本的に成功した人しか語らないものだということを踏まえて冷静に判断してください。その上でアメリカの大学院に行くんだという決意がある人には素晴らしい環境が待っていると思います。
アメリカ大学院進学を目指す学部生のするべきこと
早い段階から研究室に所属して研究する
学部卒業からアメリカの博士課程へ進学を目指す場合、研究室配属の前から研究室に出入りした方がいいと思います。アメリカの大学院入試では筆記試験がないのもあり、研究経験が非常に重要視されます。アメリカの学生の中には一年生から研究室に所属する人もいますし、卒業後テクニシャンとして経験を積んでから出願する人もいます。*4 特に実験系は実際の作業は高校生でもできるレベルのものであることも多く、研究できる実力・知識がついても技術が揃っていないという状況はもったいないです。
あとは早くから所属させてくれる研究室を見つける、教授に直接話すのはハードルが高いと思われるかもしれませんが、私の知り合いの範囲では教授たちは「言ってくれればやらせるよ」というスタンスの人も多いです。*5 基本的にやる気のある学生は歓迎されますから、飛び込んでみるのがいいでしょう。日本語が通じる環境で飛び込めないようなら、アメリカでの苦労は必至です。
授業は真面目に受けておく
アメリカの大学院入試では成績も研究ほどではありませんが、そこそこに重要視されます。多くのプログラムがGPA3.0の最低ラインを持っていて、普通のルートでこれ以下で合格するのはほとんど無理と言っていいでしょう。ただし、GPA4.0にしてやろうと足掻く必要はありません。アメリカの複数の教授たちがいうには、彼らがアプリケーションを見る段階までくれば誰もGPAのことなんて気にしてないとか。
もちろん成績が良いに越したことはありませんが、完璧にするために日夜勉強するぐらいならそこそこの成績でしっかり研究した方がいいということです。一般的にGPA3.5以上あれば成績で切り捨てられる心配はないのではないでしょうか。*6
補足すると、自らの専門の科目の成績が悪いのは結構悪印象になりますし、一・二年時の成績が悪くても改善されていればある程度許される等の加味があります。多少つまずいても諦めずに真面目に授業は受けましょう。
複数の教授と仲良くなる
上記の真面目に授業を受けると通じることろがありますが、自分から積極的に複数名の教授と絡みに行くのがいいでしょう。研究経験と同じぐらい推薦状は重要な上、多くの大学院で3通以上の提出が求められます。推薦者が教授である必要はありませんが、アメリカの学部生はまず間違いなく教授で固めてきます。*7 またこれは少し難しいですが、指導教員や推薦状を書いてもらう教員はアメリカ経験のある人がいいでしょう。アメリカで知られている人の推薦状、アメリカ式の推薦状の書き方を分かっている人の推薦状の威力はそうでないものとは比較になりません。
それこそアメリカの教授、アメリカ在住の日本人教授とコネクションが作れれば最高ですが、1学部生がそこまでするのは高い行動力とある程度の実力が必要です。ただ動いてみて損になることはないので、ダメ元でメールでもなんでもしたら良いと思います。
実戦で使える英語力を身に付ける
トップ校での足切りはTOEFL iBT 100点が基準になると思いますが、学業成績同様足切りより上なら特には問題になりません。*8 むしろ問題なのは書類選考を通過した後の Interview (面接) でしっかり受け答えができるかという点です。
アメリカの博士課程は教授との頻繁なディスカッションの上に、TAなどで生徒を学部生を教えるのが必須のところも多く、実践で使える英語を持っているかどうかもInterviewで見られています。英語の試験を突破しなければTAすることができないという大学もある程です。アメリカ学生生活で苦労しない英語の習得方法についてはこちらの記事にまとめました。
志望校や研究室を絞らず、幅広く研究をチェックする
アメリカの大学院入試は研究室単位の日本と違い、研究科単位です。特に生物学系や化学系は、ローテーションと呼ばれる入学後に研究室を2〜4つほど三ヶ月ずつ回ってから所属を決めるシステムが主流になります。工学系にはローテーションがないので少し勝手が違います。*9
また、専攻によってはトップ校の大学院は合格率が一桁%のレベルです *10 院試がない上に、上位20%は十分受かる可能性があるQualified studentsと言われますから、どの大学院に合格するかは運要素がどうしても絡んできます。そんな事情からどれだけ華々しい経歴でも10校近く出願する人がほとんどです。*11
大学院の受験戦略はまた別の記事で紹介するとして、私が言いたいのはアメリカの大学院を目指すなら志望校や研究室は広くみておいた方が良いということです。直前になってウェブサイトを漁るようでは探しきれないと思うので、かなり余裕を持って普段から論文の著者と所属を気にしておくと良いでしょう。
実際の出願手順と出願戦略
この記事は学部入りたてや、研究室配属前にしておくべきなことを解説した記事でしたが、より実践的な出願戦略についても今後記事にしようと思っています。
締め切りなど大学のウェブサイト等調べれば分かることではありますが、プロセスに詳しくない人、アメリカ進学を周りに相談できる人がいない場合はこういう本で基本を知るのもいいと思います。実際の細かい出願手順や必要書類、先輩の体験談等が載っています。
はりねずみ的にまとめると...
*1:日本で唯一受けたところが上手くいかなければアメリカの大学院にそのまま出願する流れでした。
*2:政府の援助が厳しい割りによくやっているというだけで、環境の改善は願うばかりです。
*3:神経科学や生物専攻は7年かかることなんてザラです。平均は6年ぐらいでしょうか。
*4:私も二年生から研究室に所属していました。
*5:もっと言えば受け入れしてくれないような研究室は学生指導に熱心でないと言えるかもしれません。
*6:もちろんGPA4.0でSumma Cum Laude、日本でいう首席で出ている研究職の方もそこそこいらっしゃいますが、そうでない人も多いです。
*7:私も教授四人に推薦状を書いてもらいました。
*8:基準点に足りなければ大いに試験勉強をしてください。
*9:私はあまり工学系には詳しくありませんが、工学系の人の方が留学している日本人が多いように感じます。体験談も探せばたくさん出てくると思いますのでそちらを参考にしてください。
*10:神経科学はまさにこれです。
*11:20校に出願する人もいますし、ここに行けなきゃ就職するなんて人は数校のみに出願ということになるでしょう。