最も身近な留学といえば日本の大学在学中に半年から1年間海外の大学へ留学する交換留学だと思います。学費が安い日本の大学に在籍しながら高学費のアメリカの大学への交換留学は確かにお得ですが、中には日本で高校を卒業しながらアメリカの大学へ進学しアメリカの大学を卒業する、いわゆる正規学位留学をする人たちも存在します。この記事では実際に学位留学した私自身の経験をもとに日米併願と出願戦略について解説したいと思います。
前置き
私が大学受験をしたのはしばらく前の話なので、細かい事情は当時と異なっているかもしれません。出願戦略の考え方等はそこまで変わりないと思いますが、受験の際は必ず最新の情報を確認してください。また細かい必要書類等、出願方法等は前提知識として触れません。よく解説してある本、サイト等々あるのでそちらを参照してください。
日米併願とは
文字通り日本の大学とアメリカの大学を両方受験すること
多くの人はまずどこの国で大学に行くか決めて、その国の大学しか受験しないことが多いでしょう。アメリカに行く人にしても、「アメリカ留学」をしようという気持ちでアメリカの大学の対策をメインにする人が多い印象です。しかし私はアメリカの大学をあくまで1つの選択肢と捉えて、合格したところから1番行きたいところへ行くという受験、日米併願を推奨しています。なんなら日米英でも、日米中独英でも良いと思います。
ガチ併願とライト併願
同じ日米併願でも種類が二種存在します。
- 日本の私立大学等の英語重視のAO試験や英語学位プログラムなどのアメリカに出願するのと同じ準備で日本国内を併願するライト併願 *1
- アメリカの大学に出願しつつセンター試験や二次試験を受け日本の国立大学を受験するガチ併願 *2
当然後者の方が難易度は高く、ハイリスクハイリターンな出願方法になります。また後者は前者の発展系になるので、ライト併願勢の中で特に余裕がある人がガチ併願をやるという印象です。次のセクションでは併願のメリットとは具体的に何なのかを解説していきたいと思います。
日米併願のメリット・出願戦略
進学先のレベルを担保できる出願戦略
日本の大学受験はその性質上、国立大学は併願ができません。前期試験・後期試験と受験するチャンスは二回ありますが、後期の門は狭い上に難度も高くあてにはならないのが現実です。しかし、アメリカの大学受験は併願の制限となるのは本人の時間だけで実質無制限です。さらにアメリカには東大京大クラスの大学がいくつもあるので、日本単願の場合の一発勝負よりもリスクを軽減することができます。アメリカの大学で保険をかけることで、センター試験が多少悪くても第一志望の国立大学に突っ込むことも可能です。また、AO試験枠や英語学位プログラムは正直なところアメリカのトップ校に出願するレベルの書類、テストスコアが揃う人ならまず間違いなく合格する程度の難易度です。これらで日本のトップ私立校を抑えておけば、二次試験は国立大学の物だけに集中することができるのです。
似たようなことがアメリカの大学受験にも言うことができます。アメリカには併願制限がないとはいえ、10~15校以上に出願するのは面接やエッセイ準備の観点から言っても現実的ではありません。本来はその10~15校程度をトップ校、妥当校、安全圏校に均等に振り分けて出願するところですが、日本でトップ私立を担保に取ることで出願する10~15校をトップ校(本当に行きたい大学たち)に全振りすることが可能です。結果的に「トップレベルの大学に行ける確率」を上げることが可能なのが日米併願となるわけです。
入学後のプラスに
日米併願をする以上、受験者はTOEFLを受けることになります。ここで好成績を残しておくと日本の大学では英語の授業が免除になったりします。もっといえば、日本の大学では英語ができる人があなたの想像以上に少なく、英語ができるというだけで日本の大学では相当なアドバンテージがとれるのです。日米併願で培った英語力は必ずや就職、研究発表などで威力を発揮するでしょう。
ガチ併願特有のメリット
進学先の担保だけならガチ併願でなく、ライト併願でも良いような気がしますが、ガチ併願ならではのメリットももちろん存在します。ライト併願では東大京大をはじめとする国立大学への出願はできないという点もガチ併願のメリットですが、それ以上に日本の大学受験の範囲はアメリカの大学の履修範囲であるというメリットがあります。
最終的にアメリカの大学に進学する場合、特に数三や物理化学は日本の大学受験レベルのものをアメリカの大学の授業で扱うことになります。繰り返しじゃあつまらんだけではと思われるかもしれませんが、いきなり違う国で違う言語で生活・授業が始まるわけです。大学の最初は多少履修内容が被っているぐらいの方がストレス軽減になります。また、アメリカでは授業の成績は大学院、就職に必須のインターン選考等で大変重要視されます。基礎科目で好成績を残しておいて損は全くありません。
日米併願のデメリット
最初の説明の通り、日米併願はハイリスクハイリターンの戦略です。そのリスク、つまり日米併願のデメリットは二兎を追うものは一兎をも得ず状態になる可能性があること、最悪の場合大学受験全滅の可能性まであることです。
日米併願のメリットの多くは「日本のトップ私立の合格を余裕を持って押さえる」ことが前提になっています。逆にいえば、AO枠や英語学位コースの合格が押さえられなければ相当厳しいリスクが待っているのです。
受験校のレベルを下げれば下げるほど日米併願はメリットが消えて、受験する日本の私立校を増やせば増やすほど負担が大きくなって二兎を追うものは云々状態になっていきます。日本のトップ私立の合格を余裕を持って押さえられないようであれば、日米どちらかに専念するのが得策です。出願の時期的に日本の大学の結果を見てからアメリカの大学出願することはできず、自分の実力を的確に図ることが求められます。
どんな人に日米併願がおすすめか
誰でもと言いたいところですが、現実の大学受験はそう簡単ではないので私の感覚をお話します。おすすめかどうかに影響するのは「英語力、やる気、お金、実力」の四要素です。もちろんバランスよく四要素が揃っている人には間違いなくおすすめですが、各要素がどんな意味を持っているのか解説したいと思います。
もちろんこれは私個人の意見ですから、これらを満たさなければ絶対に日米併願はしない方が良いというわけではありません。どちらかといえばこれらの条件を満たしているのに日米併願をしないのは損だよという趣旨の指針になります。
英語力もしくはそれをカバーするやる気のある人
「英語力」とは具体的にTOEFL90~100点程度、帰国子女クラスのことを指します。英語力を上げるために留学するのだから英語力はそこまでなくてもと思われるかもしれませんが、英語力を上げる、見聞を広める目的なら交換留学などの短期留学で十分です。正規学位留学でそもそも一流校に合格するためには高い英語力が求められ、この高い英語力に物を言わせて日本の受験も突破することが求められるので、日米併願を実行するには高い英語力はほぼ必須です。
なら帰国子女にしかチャンスがないのかというとそんなことはありません。海外経験がなくても独学で帰国子女レベルの英語を扱う人は数多く存在します。相当なやる気を持ってちゃんと対策すればTOEFL100点は帰国子女でなくても十分に達成可能です。蛇足ですが私が使っていた勉強法をこちらに置いておきます。
お金もしくはそれをカバーする実力のある人
これはアメリカの大学の学費の高さによるところです。州立(いわゆる国公立)でも年間300万円、私立なら年間600万円という学費を払える親の経済力、もしくは奨学金をもらえるほどの実力が必要になります。アメリカの大学ではFinancial Aidと呼ばれる学費補助が広く利用されますが、国外生の受験ではFInancial Aid申請をしていない方が優遇されます。国外生に対してもNeed Blind(学費払えるかどうかを入学基準にしない仕組み)を適用しているのはHarvardやMITらのごく一部の私立大学のみです。*3
近年は奨学金の幅も増え、経済状況が多少悪くても実力さえあればアメリカ進学は現実的なものになっています。もちろんお金があれば実力がなくても良いと言うわけではありません。あくまでお金がないと求められる実力のハードルがさらに上がるというだけで、一流校は奨学金の申請をしなくとも難関です。いつの時代の話かアメリカの大学は入るのは簡単で卒業するのは難しいというのは嘘で、両方難しいです。
実際にやってみての感想
何を隠そう私も日米併願、それもガチ併願をしたうちの一人です。上記のシナリオ通りにアメリカの大学は行きたい大学(私の場合はトップ総合研究大学)のみに出願し、日本は私立一校と国立一校のみを受験しました。*4
確かにどちらか一方のみの方が楽だったかもしれませんが、2倍大変ということはないと思います。純粋に併願面白いです。数三に飽きたらアメリカのエッセイ書くとか、過去問解く合間に課外活動の時間数増やしにテニス教えに行くとか、受験期間とはいえ変化や面白さが欲しいという人にはうってつけなのではないでしょうか。
はりねずみ的にまとめると...