Neurohog Reports

日米英で学校を卒業して、それぞれの大学・研究・テニス・海外生活について記事と漫画にしています。

アメリカの研究所ってどんな感じなの? 【医師留学/NPO/フレッドハッチンソンがん研究センター】

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研究所の中身シリーズ第二弾として、アメリカ・ワシントン州にある研究機関、フレッドハッチンソンがん研究センターを取り上げたいと思います。日本での知名度は皆無ですが、ノーベル賞を三人輩出し、生命科学に研究を限定してるにも関わらず予算規模は900億円以上と、アメリカで生命科学に携わる人なら聞いたことがある研究所です。アメリカの生命科学研究所はこういう感じですよという参考にしていただければ幸いです。

 

 

 

フレッドハッチンソンがん研究センターなんて知らん

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弟をがんで失った兄が始めた研究所

メジャーリーグのピッチャーでもあった弟のFred Hutchinsonを肺がんで失った医者、William Hutchinsonが1956年に設立したのがFred Hutchinson Cancer Research Center、通称Fred Hutchです。親族を失って医者になりましたはよく聞く話ですが、研究所設立しましたというのはスケールが違いますね。

その後、国指定のがん研究所任命や基礎研究、生命科学全体への分野拡大を経て今に至ります。がん研究が主力ではありますが、伝染病研究や細胞学研究など幅広く生命科学研究が行われています。内部はBasic Science Division、Human Biology Division、Clinical Research Division、Vaccine and Infectious Disease Division、Public Health Sciences Divisionの5つに分かれています。*1

また研究センターという名称ですが、医師(M.D.)も所属しており、SCCA(後述)を通して一部病院的な役割も果たしています。骨髄移植手術は有名で、開発者であるE. Donnall Thomas氏は当センターのClinical Research Divisionの所属でした。*2

 

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世界有数のNPO/NGO研究機関

Fred HutchはNPO(非営利団体)として活動する研究所で、州立でも国立でもありません。Nature Indexで生命科学研究に分野を絞れば、HHMIのJanelia Farm、UCSDお付きのSalk InstituteについでNPO世界8位の研究成果規模を誇るまでに成長しています。

またFred Hutchは近隣に存在するワシントン大学、シアトルチルドレンズ病院と密接に連携しており、三組織合同でシアトル共同がん治療連合(SCCA)を設立して、患者側がどの病院に行こうか迷わないで済むように対策しています。

 

研究所の中身はどんな感じ?

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環境は非常に快適

予算が莫大なだけあって、中の設備は新しく快適です。 開放感のあるデザインに加え、South Lake Unionという湖の隣という立地ゆえの眺めの良さ。食堂や図書館、講堂なども完備されています。各フロアに点在する休憩スペースも広く、研究環境全体では

こんなツイートもしましたが、全体的な環境、どこで研究したいかと考えるとナンバーワンと言っても過言ではないなというところです。テニスコートこそありませんが、シアトルの市街地が歩いてすぐそこの場所にあるので仕方ないでしょう。

余談ですが、先日全く古いわけでもないのにトイレの改修工事、全く遅いわけでもないのにWi-fiの高速化工事が行われました。よほど設備投資する気が満載なんでしょうね。

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研究設備も一流

設備投資に熱心なだけあって、コアファシリティーも特に顕微鏡が最新の電子顕微鏡、共焦点顕微鏡など非常に充実しています。研究室自体もしょっちゅう引越し改修を繰り返しているので新しく綺麗です。同じモデル生物を扱う研究室を同じフロアに持ってくることで、リソースの共有や共同研究を活発にする試みもなされています。

広さ自体は標準的なアメリカの研究所といったところでしょうか。

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イベントも多数

毎週月曜日に合同ラボミーティングで研究進捗報告、毎週火曜日に外部の人を呼んでセミナー、毎週金曜日に内部の人のセミナー、同じく金曜日に各ラボ持ち回りでのBeer Hour開催。この他にも随時セミナー、ソーシャルがあり、毎日何かしらは行われています。おかげでPI陣はなかなかに忙しそうですが、勉強する機会も多く学生たちからすれば有難いことです。

 

どうやって所属するか

パーマネントポジションを獲る

実力、実績、コネクションがあるあなたは正規メンバーを目指しましょう。詳しいことは私のような一介の学生には分かりませんが、大学ではないので待遇が教員職とはやや異なります。授業をする義務がほとんどない代わりに、グラントが獲得できなければ職を追われるとかなんとか。一応Assisstant Member、Associate Member、Full MemberがそれぞれAssisstant Professor、Associate Professor、Full Professor に対応するようです。

 

ポスドクとして参加する

Fred Hutchは200名近くのポスドクフェローが所属していて、随時フェローシップも公式サイトで公募されています。社会保険はもちろん、子供向けのケアセンターがあったり、研究所内クリニック受診やワクチン接種が可能です。この辺りはBiomedical研究所らしいですね。

また、企業就職向け支援プログラムも存在していて、製薬会社やバイオ系ベンチャー企業に就職する道も開かれています。

 

UWの大学院生として所属する

Fred HutchのPIはほぼ全員がワシントン大学に連携教員としての籍*3を持っており、UWの大学院プログラムを通して彼ら彼女らを博士課程の指導教官にすることができます。分子生物学プログラムから神経科学プログラムまで幅広いプログラムが受け入れ先としてFred Hutchを選択可能にしているようです。

 

学部生がResearch Internとして所属する

大学院生だけでなく、学部生もFred Hutchで研究を行うことができます。ワシントン大学生なら、インターンとして所属し、研究を単位として認めてもらうことが可能です。Fred Hutchが夏に運営している公式のSummer Internプログラム(SURP)を通してなら他大学からの受け入れも行っています。*4

 

高校生でもSummer Internに

地域に向けたアウトリーチにも力を入れているFred Hutchでは高校生を夏にインターンとして受け入れるプログラム、SHIPがあります。これに採用されれば高校生から研究室で実際の研究に携わることができます。激化するアメリカのAO入試*5 でこういった経験は非常に重宝されます。あまり乗り気でない指導教官もいるので注意は必要です。*6

 

はりねずみ的にまとめると

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*1:嗅覚受容体の仕事でノーベル賞受賞したLinda Buck先生も特にがんの研究はしていませんね。

*2:ノーベル賞も受賞されましたが、2012年に亡くなりました。

*3:Adjuct Professorという肩書です。

*4:詳しくは公式のウェブサイトをご参照ください。

*5:アメリカの大学には二次試験がないので成績と課外活動が非常に重要です。

*6:正直ただの足引っ張りになることもあるので気持ちは分かります。