Neurohog Reports

日米英で学校を卒業して、それぞれの大学・研究・テニス・海外生活について記事と漫画にしています。

最も正確な世界大学ランキングはどれ?・後編【実体験/神経科学分野の格付け】

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タイトルに後編とは付けましたが、前編を読まなくても理解できる内容になっています。ランキングそのものの解説に興味がある方は前編をご覧になってください。この記事では私の実体験と神経科学分野のランキングについてお話ししたいと思います。

 

 

 

 

おさらいと前置き

前編では各大学の研究・教員・学生のレベルを測るランキングとしてQSのAcademic Reputation Rankingが最も優秀であるという私の意見を紹介しました。

 

ここからは私の高校生時代の大学選びと大学院選びの経験をQSのSubject Rankingに交えてお話ししたいと思います。取り上げるランキングは私の専攻上、生命科学系のものになりますが、同じ方法・指針で他の分野で大学をリストアップすることは容易です。行きたい研究室まで決まっている人は足しにならないかもしれませんが、海外のことはさっぱりという人には参考になるかと思います。

 

学部進学先決定に使用したランキング

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研究職志望だったので専門分野のランキングを重視

当時都立高に通っていた私はイギリスに中二〜高一まで二年間住んでいた経験があったとは言え、アメリカの大学の知識はアイビーリーグを全校言えないレベル。*1 アメリカ進学を進路指導出来る力は学校になく、情報は基本的に自力で集める必要がありました。*2 当時から研究職志望であった私は大学を選ぶ上で最重要視したのが国際的な研究の評価でした。どうしてアメリカの大学に進学する気になったか、日米併願したのか等はまた別の記事にしたいと思いますが、当時の私は研究の強さを測るならランキングが参考になると思ったわけです。教育を重視する場合は世界大学ランキングに載りにくい名門リベラル・アーツカレッジなども考慮する必要がありますが、研究大学のリストアップにはランキングが有効だと思います。

私は神経科学、生物学系が志望でしたので、QS Subject Ranking: Life Scienceを利用しました。図二の左端に省略したものを載せています。アメリカの学費の高さ的にもトップ校に行かなければ意味がないと思っていた私は、このランキングを元に上位20校を調べました。そこから学費や立地、プログラム等で絞り込みをかけ十数校に出願しましたが、そのまま20校全てに出願しても良かったかなと今は思います。*3

 

実際入学してみての感想

University of Washingtonは間違いなく一流の研究大学ですが、東京大学もまた一流、そうでなければ超一流の研究大学です。図二の真ん中にあるランキングの通り、東大がUniversity of Washingtonの上に来るのが順当だと思います。前編でもお伝えしましたが、複数大学の同級生やキャンパス、教員を見るとより正確なのはやはりAcademic Reputation Rankです。

 

実際に学部の大学選びに使って欲しいランキング

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QSとTHEのReputation Ranking

実はTimes Higher EducationもReputation Rankingを出しています。ランキング方式はQS同様、アンケートで教員に15校程度リストアップしてもらう方式なようです。自分の進みたい専門分野が決まっているのならQSのSubject Rankingを使った方がいいですが、アメリカの大学のいいところは専攻は二年生の終わりまでに決めればいいところでもあります。この図3にある2つのランキングの上から100〜150校程度までは大学として間違いないでしょう。その中から治安やら学費やらで無理な学校を減らして、プログラムが魅力的な学校を抜き出していくと志望校リストが見えてくるのではないでしょうか。

 

東大をはじめとして日本の大学のランキングそこそこ高いから留学する必要ない?

勘違いして欲しくないのは、東大に行けばいいから正規留学する必要がないというわけではないということです。大学生という人生観、人格形成に大きな影響がある時期をアメリカという自由で多様な環境で過ごすことには確かに価値があります。また研究者志望の人たちは欧米式の手厚い教授陣の研究指導や、アカデミックな英語の訓練と自由で厳しいカリキュラム、研究室配属がないが故の複数の研究室の渡り歩きや大学一、二年生からの研究開始など、学部だからこそアメリカに行くべきな理由は多々あります。*4 奨学金にしろ両親の経済事情にしろ、金銭的な余裕があり、研究者を目指しているならAcademic ReputationでTop50に入るような大学には東大を蹴ってでも入る価値が十分にあると私は思います。

 

大学院選びに使って欲しいランキング

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QS Subject Ranking: Academic Reputation Scoreはかなり有用

QS Subject Rankingで分野を選択してでさらにAcademic Reputation Scoreで並べかえを選択すると図4にあるようなランキングが出てきます。このランキングはかなり秀逸で、MicrosoftやAmazonの本社もあるSeattleのUniversity of Washingtonにおける花形専攻と言えばComputer Scienceですが、しっかり世界7位にランクされています*5 他にもComputer Scienceの大名門として知られているCarnegie Mellon UniversityやUniveristy of Torontoがしっかりトップ10にランクされています。

私のよく知る生命科学分野のランキングを見ると、ここでも医学系でトップと目されるHarvard UniversityやJohns Hopkins Universityに加え、大学院生がその辺のポスドクより既に優秀とされるメディカルの超名門University of California, San Francisco校が学部設置のない大学院・メディカルスクールのみの大学であるにも関わらずしっかりトップ10にランクされています。

総じて専門分野の研究・教員・学生のレベルが非常によく反映されていると言えるでしょう。海外の大学院をあまり知らない人で、大学院留学を考えている場合はこのランキングでリストアップした学校を上から見ていくと取りこぼしが少ないのではないでしょうか。ただここにリストアップされるのはあくまで「大学」で、優秀な研究機関との合同博士課程など他にも素晴らしいプログラムがあることには留意してください。あくまで最初のステップとして考えていただければ幸いです。

 

生物系、化学系分野はランキング意外と大事

アメリカの大学院博士課程において、生物や化学の分野ではローテーションというシステムが採用されています。*6 日英の大学院やアメリカの工学系の大学院が研究室単位で入学が決まるのに対して、ローテーションを採用しているプログラムでは研究室が入学後に決まるのです。最初の一年あまりは2〜4つの研究室を三ヶ月程度の単位で渡り歩き、最終的に希望の教員達と相談して所属を決めます。そもそも学生を取る気がなかったり、競合になったり、気に入ってもらえなかったりする可能性があるので、この大学で行きたい研究室は1つだけというのは絶対に避けたほうがいいです。このあたりの大学院の実情は別の記事で詳しくお話ししたいと思います。

そんな時に優れた研究室が多いという指標になるのがSubject Rankingになるわけです。分野上位50校辺りは複数以上良い選択肢があると思います。また直接研究室に入る場合でも、アメリカの博士課程は最初の二年間でかなりの量の授業をこなしますので、クオリティの高さが保証されている、ランキング評価の高い大学院を中心に考えるのをおすすめします。

この記事でもお話ししましたがアメリカの大学院は合格率が低く、それゆえに10校以上に出願するのは普通にあることなので、ランキング中上位大学を広く見てみるのが良いでしょう。

 

神経科学分野の大学選びに使って欲しいランキング

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神経科学のSubject Rankingはない

さて、困ったことにQS Subject Rankingの分野の選択肢に神経科学はありません。神経科学に限らず、学際的な学問はアンケートの難しさでもあるのかランキングがないのです。*7 ここからは(も?)完全に独断と偏見ですが、海外生活7年で日米英で学校を現地生として卒業して各国名門校に友達知り合いがいる人間の専門分野に関する意見なので、少しはあてになるかと思います。

 

医学・臨床系、モデル生物人間の神経科学ならLife Sicence Ranking

Life SciecnceのSubject Rankingで上位に入るのはメディカルスクール*8 を設置してある学校で、つまり大学病院が併設されている大学です。図4Aを見るとCaltechやETH Zurichなど大学病院のない超名門校が苦戦しているのがわかると思います。医学・臨床系の神経科学をやりたい人、人間でfMRIを使ってどうこうという研究がしたい人はLife Sciecnceで上位の大学を見ると良いでしょう。

 

基礎研究系、モデル生物マウス・ハエの神経科学ならBiological Science Ranking

Life Scienceのランキングと一変してBiological SciecneになるとCaltechやETH Zurichなどがトップ10にランキングされます。基礎研究系の神経科学研究ではこれらの大学は確かに超一流で、工学系の強さも人以外のモデル生物を用いた研究で遺憾無く発揮されていると思います。 人を扱うつもりがなければLife Scicenceのランキングを無視して、Biological Rankingだけ見るのも良いかもしれません。ただ神経科学も生物系の例に漏れずローテーションがありますので、医学系も基礎系も両方試してみたいという場合は両方のランキングで評価されている大学を優先的に調べてみてはどうでしょうか。

 

おわりに

大学院の実態や出願戦略についてはまた別の記事で詳しく紹介したいと思います。アメリカの大学院生の待遇については記事にしているのでこちらも参考にしてみてください。

また番外編としてNature Indexを扱っています。

 

はりねずみ的にまとめると...

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*1:意外と8校言えない人多いんじゃないでしょうか。

*2:このブログも似たような環境の人に役立てばという思いで書いています。

*3:Common Applicationという統一出願ポータルがあるので20校ぐらいなら併願は可能だと思います。もちろん個別エッセイ等の質が落ちてします危険性はあります。

*4:ここも詳しくは別の記事にしたいと思います。

*5:私もここに関しては東大を十分に上回る教員・学生・研究のレベルがあると思います。

*6:Computer Sciecneでもローテーションあったりするので各Websiteをよく見るのをおすすめします。

*7:US News & World Reportやその他機関が出すランキングはありますが、私の感覚とはずれがあります。

*8:ちょっと違うんですがいわゆる医学部。