「Wilson H22」「HEAD PT57A」...これらのラケット名を聞いてもピンとこない人はテニス愛好家の方でも多いのではないでしょうか。プロにしか支給されないラケット達はプロストックと呼ばれ、市販品に見えるようにペイントされて使用されます。あの選手が使っているからと選んだラケットは実際に使われているラケットと別物なんてことも。
プロストックにはプロ専用機種と型落ち機種の二種類がある
「Wilson H22」は市販されたことがない
ラケットのビームが22mm厚な特徴をそのまま名称にしている「Wilson H22」はプロストックの中でもプロ専用機種に分類されます。専用機種は契約プロを中心に支給されるラケットで、市販はされていません。 しかし近年Wilsonから発売された「Wilson Ultra Tour」は、もう一つの有名Wilsonプロストック「Wilson H19」とモールド、つまり形状が同じだと言われています。このように場合によっては後追いで販売されることもあるようです。ちなみに「Wilson Ultra Tour」は「Wilson H19」モールドであるがゆえに、他の「Ultra」シリーズとは使用感がまるで違うので注意してください。
「HEAD PT57A」は市販されていた
アンディ・マレー(Andy Murray)選手が使っているとされる「HEAD PT57A」は実は「HEAD Pro Tour 630/280」として1994年から販売されていたものです。次々ラケットがリニューアルされていく中で、ジュニア時代から慣れ親しんだ感覚を変えたくないというプレーヤーの要望に応えるために絶版ラケットを支給しているメーカーもあります。逆に言えばジュニアが使っているラケットに注目すると良いということになります。この辺は別の記事にしたいと思います。
個人専用開発ラケットも存在する
ロジャー・フェデラー(Roger Federer)選手やセリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)選手クラスになれば開発チームと共同で個人専用に調整されたラケットを使う場合もあります。ただここまでするケースはプロとしてもかなり珍しいと思います。
プロストックはやはり市販品とは違う
プロストックの特徴
プロストックは市販品とモールド、いわゆる形が一緒でも重さやストリングパターンが特殊であったりぱっと見で見分けがつくものからつかないものまで様々です。しかしそのほとんどは厳密なクオリティ・コントロールのためヨーロッパの工場で作成され、*1 工場から出てくる段階では市販の上級者向けのラケットより少し軽い300グラム程度しかありません。プロ達はこのヘアピンと呼ばれる裸のラケットに自分の好みで重りを付け足していくのです。400グラム以上にまでする人やほとんど足さない人までかなり好みは分かれるところだとか。他にもプロストックは市販のラケットに比べてかなり柔らかかったり、材質が高質なものであることもあります。
ネットで画像検索をかけて大坂なおみ選手のラケットをよく見ると、白いテープのようなものが貼ってあるのがわかると思います。 鉛やタングステンのテープを内側に貼ったり、バンパーガードの下に貼ったり、グリップの内部にシリコンを入れたりする方法があるようです。このような加工は素人である我々にも簡単にすることができます。何を隠そう私も自分でラケットを加工しているので、これについても追い追い記事にしてみようかと思います。
錦織は市販のものとはちょっと違うがフェデラーは本物らしい
2019年Wilsonからは「Ultra Tour 95 CV」が錦織仕様として販売されています。特徴としてラケットがかなり固いことと、長いことが挙げられますが、実際に錦織選手が使用しているラケットはさらに長いと言われています。*2 一般的なラケットは27インチですが、「Ultra 95 CV」は27.25インチ。実際に錦織選手が使用しているのは27.5インチもあるとか。もっとも彼は細くセッティングを変えることで有名なので、材質やら長さはちょくちょく変わっていると思います。
前述の通り、フェデラー選手は個人用に特別にラケットを開発しています。しかしできる限りそのままのスペックで販売することにこだわりがあったようで、市販されている「Wilson Pro Stuff RF97 Autograph」に重りを足しただけだと言われています。こだわり以上にフェデラーの人気ゆえの裁判沙汰がいい加減鬱陶しいという事情もあるのでしょう。
ペイントジョブはラケット業界の優しい嘘?
当然ながらプロテニスプレーヤーと一般テニス愛好家では筋力も技術も違います。プロが使っているからという理由で同じラケットを使えば、使いこなせないだけでなく怪我のリスクも高まります。例えヘアピンで受け取っても加工しない人がほとんどですから、最大公約数的な買ってすぐ使えるラケットを市販する必要があるわけです。しかし嘘は嘘なので裁判沙汰が近年数件あった結果、メーカーは「Kei Nishikori endorsed」のように「using/使っている」ではなく「endorsed/オススメしている」という表現に変えて販売しています。*3
大切なのは自分に合ったラケットを理解して使うことです。今まで憧れのプレーヤーのラケットを使っていた人は、これを機に自分に合ったラケットを試打等で探してみてはどうでしょうか。もしかすると大幅な実力アップにつながる...かもしれません。
はりねずみ的にまとめると...